理化学研究所と横浜市立大学、京都先端科学大学などの研究グループは、薬用植物「ニチニチソウ」の種子胚におけるアルカロイド生合成の開始過程を明らかにした。アルカロイド代謝において細胞分化が重要な役割を担う可能性を示している。科学誌「ニュー・ファイトロジスト」のオンライン版に22日付で掲載された。
ニチニチソウは、抗がん剤として使われるビンブラスチンやビンクリスチンをはじめとする多種多様なアルカロイドを合成する。
研究グループは、ニチニチソウの種子発芽過程において、アルカロイド蓄積量と生合成関連遺伝子の発現量、さらにアルカロイドの主な蓄積場所である乳管細胞の形態的変化を調べることで、細胞が「代謝的に」分化する過程の解明に挑んだ。
受粉後の成熟過程にある種子、完熟後に吸水させた種子、そして発芽過程の種子から胚を取り出して顕微鏡で観察した。すると、乳管細胞が成熟途上の種子の胚においてすでに形態的に分化していることを発見した。
発芽過程の胚の細胞を顕微鏡で確認したところ、乳管細胞周辺では、一般的に発芽前と直後の胚で見られる構造があった一方で、乳管細胞では分解型液胞と呼ばれる細胞小器官が発達しているなど細胞内構造が周囲の細胞とは異なっていたという。
次に完熟後の種子に着目。吸水前、吸水後発芽前、発芽後の胚を取り出してアルカロイド蓄積量と遺伝子発現量の変化を調べた。その結果、アルカロイド生合成は発芽後12時間目以降に活発になることが判明している。
種子に注目したこの研究の成果は、植物の一生の中で最も脆弱な時期といえる発芽から芽生えの時期においても、アルカロイドはニチニチソウにとって重要な役割を担っていることを示唆した。
研究グループは「今回の研究により、発生や成長に連動したニチニチソウアルカロイド合成の制御機構の存在が示された」と説明。「この未知の制御機構を研究することで、ニチニチソウが非常に複雑な化学構造を持つアルカロイドを合成できる仕組みの解明につながる」と講評している。