東京藝術大学 岡本美津子副学長(デジタル推進担当)/大学院映像研究科教授
「日本のレジェンドも引退していく時代になってきた」。文化庁が開いている「マンガ、アニメ、特撮、ゲーム等の国際的な振興拠点及びメディア芸術連携基盤等整備推進に関する検討会議振興 や保存を検討する国の会議」で座長を務める岡本美津子・東京藝術大学副学長は、アニメ業界の先導者が現役から退いていく状況を危惧する。アニメ業界の人材を育成していく必要性とその意義とは―。
■海外でも人気な日本アニメ 昔は「オタクじゃないか?」
日本動画協会によると、2022年のアニメ産業の市場規模は2兆9277億円に上る。そのうち、1兆4592億円は海外のユーザーが占める。アニメは海外に誇る日本の主要産業として成長した。動画配信サービスの普及によりもともと評価の高かった日本アニメは、世界的にさらに人気が出ているのだ。そのような背景から、文化庁はアニメなどの振興拠点と保存施設について検討している。
だが、以前は今ほどアニメ制作が世間一般に認知されていなかった。当時、NHKでプロデューサーとして勤めていた岡本さんはある番組を制作していた中で、アニメ制作に励む若者がなかなか周囲に理解してもらえないとこぼしていたと話す。
アニメーターやアニメ監督として才能のある彼らの現状を見て、「育成、支援していかないといけない」と考えたことが東京藝術大に転身したきっかけであった。
■引退するアニメ界のレジェンド
岡本さんは自身の子ども時代を振り返った。「大塚康生さん、小田部洋一さん、高畑勲さんら世界的にも天才的なアニメクリエイターが日本で活躍中の夢のような時代だった」と語る。レジェンドたちが次々と現場を去っていく中で、先人の技を次世代に伝えていくためにはどうすれば良いのだろうか。
レジェンドたちの技術を伝承する意味でも、国の施設でアニメの原画などを保管しておくことは大切だ。「先輩たちは線一本でキャラクターや感情まで表現できちゃう人たち。アニメを制作した際の資料を残すことで、後継者が作業をイメージできる」とその重要性を指摘している。
「個人的な見解」と断ったうえで、国が作る保存施設は「保存・修復、展示、人材育成、研究を一元化できるとよい」と述べた。国の施設だけでは「担いきれない部分は大学や博物館といった既存の組織がネットワークを作っていってはどうか」と案も話してくれた。コンテンツを社会に還元する取り組みはまだまだ可能性があり、日本が先鞭(せんべん)をつけて取り組むべきという。
岡本美津子副学長(デジタル推進担当)/大学院映像研究科 教授
■「どんどん人材を輩出していきたい」 人材育成は長期的視野で。
「日本のアニメーターは、ものすごく人材不足」と岡本さん。現場を学べる機会も少ないため、東京藝術大の同僚の先生と共に、産業界とも協力して、日本のアニメの作画を大学生などに教えるプロジェクト「アニメーションブートキャンプ」を13年間継続中なのだという。「そこからアニメーターになっていく人材が生まれつつある」と嬉しそうに紹介してくれた。
岡本さんは「人材育成は長いスパンで見ていくものだ」と教育者としての考え方を話す。「NHK時代に番組に出演してもらった学生の1人は藝大で同僚の教員となり、ほかにも各大学の先生になった者もいる」と誇らしそうに述べた。
岡本さんはアニメ業界が発展している中で、日本のアニメ制作者が不足している現状をうれいて、「国家レベルで日本のコンテンツ産業を担う若手を育てるべきだ」と力強く訴える。そして、「日本のコンテンツ産業にどんどん人を輩出していきたい」と意気込みを語ってくれた。記者自身もアニメを見て育ち、影響を受けてきた。岡本さんのような課題を考える教育者・業界人に、今後も日本のコンテンツ産業を盛り上げていってほしい。