鋼矢板打設の様子

農研機構は、高知大学、日本製鉄（株）、（株）エイト日本技術開発との共同研究の成果をとりまとめた「鋼材によるため池堤体補強工法設計・施工マニュアル」を11月14日にウェブサイトで公開した。このマニュアルでは、鋼矢板や鋼管をため池の堤体内に打設して堤体の遮水性能や耐震性能を向上させる工法について、設計手順や施工方法等を一般化しており、活用により効率的に「鋼矢板二重式工法」の設計・施工が可能となる。

　耐震性能・遮水性能を向上させる「鋼矢板二重式工法」

　現在、防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法の施行により、ため池改修工事が全国で計画的・集中的に進められている。

　通常、ため池の堤体を改修する際には、ため池の貯水を完全に落水し、既存の堤体の斜面を掘削する必要がある。一方、鋼材によるため池堤体補強工法は、堤体に鋼材を打設する工法であり、貯水を維持したまま施工することができる。既存の法面を掘削せずに施工することができ、貯水量の減少を回避し、堤体の直下流の施工が発生しない利点を有している。

　鋼材を用いた補強工法のうち、ため池の防災工事として施工実績を有する「鋼矢板二重式工法」は、堤体内に鋼矢板を二列打設して、鋼材の頭部同士をタイ材（鋼矢板の上部に取り付けられ、他の鋼矢板と連結するために用いる鋼製部材）で連結する工法。二列の鋼矢板とその間に囲まれた堤体を一体化させることで、耐震性能が向上する。さらに、鋼矢板が壁体となることから、堤体の遮水性能が向上する。

　「鋼矢板二重式工法」を行うには、地区ごとに膨大な時間をかけて設計・施工方法が検討されており、設計・施工方法を一般化したマニュアルの整備が求められていた。

　施行事例を収集、実験・数値解析等で耐震性を評価

　農研機構、高知大学、日本製鉄（株）、（株）エイト日本技術開発は共同で、「鋼矢板二重式工法」の既往の施工事例を収集し、実験や数値解析等により、同工法の耐震性を評価した。堤体に要求される性能については農林水産省の「土地改良事業設計指針『ため池整備』」を参考に、鋼材の仕様については（一財）国土技術研究センターの「鋼矢板二重式仮締切設計マニュアル」に準拠して設計、施工、維持管理方法等を体系化し、「鋼材によるため池堤体補強工法設計・施工マニュアル」としてとりまとめた。

　マニュアルは、「共通編」、「設計編」、「施工編」で構成されている。共通編では、「すべてのため池への適用」、「鋼矢板工法の概念、特徴、耐震補強効果」、設計編では、「要求される性能に対する設計項目」、「鋼材および堤体の設計」、施工編では「鋼矢板および堤体の施工方法」、「施工後の維持管理方法等」について解説している。