国立研究開発法人水産研究・教育機構は、1976年から2022年までの約50年間の日本海の海洋観測データを解析し、日本海で「表層だけでない温暖化」と「春の低塩化」が進んでいることを明らかにした。
日本海は世界でも有数の昇温化が進行している海域であり、地球温暖化の影響を受けやすい「気候変動の縮図」とされている。これまでは、主に表層水温の変化に注目した研究が多く、塩分変動や、水深50mから100mまでの「亜表層」の長期変化を体系的に解析した例は限られていた。
また、水温と塩分は海洋の密度や循環構造を決める基本的な要素であり、その長期的な変化を観測して捉えることは、気候変動への理解に加えて、水産資源や海洋生物の生態系への影響を評価する上でも重要である。
研究グループは、日本海各地で実施されてきた定期的な海洋観測データ(海水の温度・塩分の鉛直分布)を統合し、約50年間の季節別・水深別の水温と塩分の変化の解析を実施。さらに、河川流量・降水量(降雪量)データ、人工衛星観測による海面流速データを組み合わせて解析し、海水の塩分が低下する現象である「低塩化」の要因を検証した。
その結果、この50年で日本海全域での昇温化が亜表層にまで及んでいることを長期観測データに基づいて見出した。一方、春季の日本海東部沿岸から沖合までの海域で、明確に低塩化が進んでいる現象も発見した。さらに、低塩化は、冬から春にかけての降水量(降雪量)や河川流量の増加と、中規模渦が沿岸水を沖合へ輸送することによって引き起こされていることを明らかにした。
これらの結果は、日本海の成層強化や海洋循環の変化を通じて、海洋の熱や淡水の滞留構造を変化させ、日本海における将来的な海洋熱波の発生頻度や強度にも影響すると考えられる。また、水温や塩分環境の変化を介して、日本海の水産資源の組成や量、その他の海洋生物の生態系へ影響を及ぼす可能性を示唆している。