海道大学大学院水産科学研究院の藤本貴史教授らの研究グループ、函館国際水産・海洋都市推進 機構、函館市農林水産部のチームは、「函館マリカルチャープロジェクト」(地方大学・地域産業創生 交付金事業)のキングサーモン完全養殖技術研究で、国内で初めて天然採捕個体に由来する キングサーモンの完全養殖に成功した。
今回の完全養殖の達成では、2022年に函館沿岸の定置網で天然採捕されたキングサーモンの卵と 精子の人工授精によって得られた人工種苗が親魚に用いられた。
今年7月下旬から8月上旬にかけて、成熟メス親魚16個体から得られた約2万6000粒の卵と36個体の成熟オスから得られた精子を用いて人工授精を行った。
その後、順調に胚発生が進み眼の形成まで至った卵(発眼卵)は約1万1000粒。さらに、今年9月から孵化が始まり、約9000尾の稚魚を得ることができた。
この研究成果によって、国産のキングサーモン養殖に向けた種苗生産が可能となり、養殖に適したキングサーモンの育種を行うことができるようになった。

近年、イカやサケ、天然コンブなど多くの魚介藻類で不漁が続いており、天然資源に依存した漁業では安定的な水産物の供給や漁業経営が困難となっており、〝つくり育てる漁業〟としての養殖に 取り組む必要性が高まっている。
冷水性の養殖対象魚介類の一つにサケ科魚類があり、ニジマス(トラウトサーモン)やタイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)は生食用の需要が高く、養殖サーモンとして世界的に養殖されている。
日本国内でもサーモン養殖に対する関心が高まっており、日本各地で主にニジマスを用いた養殖が開始されている。
函館ではキングサーモン(和名:マスノスケ)が定置網漁業でごく稀に漁獲される。キングサー モンはサケ科魚類で最も大型に成長する魚種で、高値で取引される。ここ数年、海外で養殖され、国内にも高級寿司ネタとして輸入されていることもあり、キングサーモンという名前は誰もが知る高級魚となっている。
このため、キングサーモンを養殖対象種とすることにより、地域の特産物として高いブランド力を付与することが可能で、既存の養殖サーモンとの差別化が可能となると考えられる。
日本国内で行われているトラウトサーモン養殖の多くは卵や幼魚を購入し、それらを育てることで養殖サーモンを生産している。しかしながら、キングサーモンでは卵や幼魚を購入することができない。そこで同プロジェクトでは函館沿岸で採捕される天然のキングサーモンに着目。天然魚を初代の親に用い、天然親魚から得られた子孫を人工飼育下で繁殖させ、種苗生産を行う完全養殖が成功すれば、キングサーモンの養殖に必要な魚を確保することができるとの認識の下、研究を進めた。