立命館大学と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、㈱NTTデータ経営研究所は共同で、日常生活の中で起こるさまざまな出来事や、対象となる人々に感謝したことを記録することにより、働く人々のワーク・エンゲイジメント(仕事に関連するポジティブで充実した心理状態)が向上することを実験的に明らかにした。
【研究のポイント】
□12日間、感謝したことを日記に記録することで、ワーク・エンゲイジメントが向上することが明らかに
□日記の内容を定量的に分析した結果、感謝に注目することで、自分が受けている上司や同僚、家族からの支援などに気づく可能性を示唆
□「感謝日記」に基づく、日本の低いワーク・エンゲイジメントを改善するための有効なプログラム開発 につながる可能性がある
立命館大グローバル教養学部の山岸典子教授らは共同で、日々の感謝を記録する「感謝日記」が、働く人々のワーク・エンゲイジメント(仕事に積極的に向かい活力を得ている状態)を高める効果を持つことを、実証した。
この研究では、日本国内の企業に勤務する社会人100名を対象に、12日間にわたりオンラインで日記を記入してもらう実験を実施した。参加者を無作為に、感謝したことを毎日記録する「感謝日記群」と、日常の出来事を記録する「日常日記群」の2群に分け、介入前後のワーク・エンゲイジメントを測定。平均で感謝日記群で9.47日、日常日記群で9.62日の記録があった。
解析には日記を記録し、心理質問紙に日記介入直前、直後、1.5ヶ月後のすべてに回答した67名(感謝日記群64名、日常日記群33名)のデータを使用した。
その結果、ワーク・エンゲイジメントの総合得点およびスコアの一つである〝没頭〟に関して、感謝日記群のみで日記介入の前後で有意な向上が認められた。さらに、記入された日記の内容に対して、頻出語分析と対応分析を用いた計量テキスト分析を行った結果、感謝日記 群のみで〝同僚の支援〟や〝家族の支援〟への感謝など、仕事の環境に関わるポジティブな語句が出現し、仕事の資源への気づきが促進されている可能性が示唆された。
この研究は、感謝に注意を向けることを核とした介入が、ワーク・エンゲイジメントを向上させることを実証した。また、日記に記録された内容から、この効果の基本的なメカニズムとして、自分が受けている上司や同僚、家族からの支援を再認識させ、働きがいを高めた可能性が示された。
今後、「感謝日記」は職場におけるメンタルヘルスの維持や生産性の向上に向けた、簡便かつ効果的なツールとしての活用が期待される。この研究成果は、10月6日に、国際学術誌『BMC Psychology』の特集号「Employee happiness and job satisfaction」に掲載された。