東京海洋大学学術研究院海洋環境科学部門の神尾道也教授、北海道立総合研究機構網走水産試験場、水産研究・教育機構水産資源研究所、アクオス研究所の研究グループは、北海道函館市臼尻町沿岸の昆布養殖施設に付着していたイセエビ型の稚エビを形態学・遺伝学的に分析し、「イセエビ(Panulirus Japonicus)」であることを証明した。
近年、海洋熱波と呼ばれる海水温の上昇が日本近海で観測されており、それに伴い生物の分布域の変化も報告されている。イセエビは、以前は千葉県から九州の太平洋沿岸が主漁場だったが、その分布域も北上し、現在では東北・福島県で新名物「常磐もの」として出荷されている。さらに北の岩手県でも、ほぼ全域でイセエビが捕獲されている。また、2023年10月には、北海道沿岸で初めてイセエビの稚エビが発見されている。
研究グループは、2023年11月に内浦湾に面する函館市臼尻町で採集された2個体目のイセエビ型稚エビの標本について、外部形態の詳細な分析を実施。その結果、この標本がイセエビ属の特徴を備えており、イセエビ属の他種とは異なるイセエビの特徴を有していることを明らかにした。
さらに、標本のミトコンドリアDNAの16SrDNA領域の塩基配列を決定し、インド―太平洋のイセエビ属全18種のものとの比較を行い、この標本がイセエビであることを突き止めた。北海道で発見されたイセエビを遺伝学的に同定した初めての例となる。
内浦湾の西側の沿岸は南方の魚が流れ着くことで、多くの魚種の分布の北限の更新が記録されてきたが、今回の研究で、イセエビまでもが北海道にたどり着いたことが明らかになった。また、2024年以降、イセエビが北海道で見つかったという報告はないため、まだ越冬はできないものと考えられる。
生物種がどのように分布域を広げていったのかを正確に種同定して記録することは、生物の分布の未来予測をする上でも重要となる。今回の研究成果により、海洋環境の温暖化に伴い、今までになかった生物の分布域の変化が起きていることが示唆された。