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北大准教授らが食品の〝飲み込みやすさ〟を数値化~嚥下食の安全性評価の新手法を確立~(第18868号)

北海道大学大学院工学研究院の高橋航圭准教授、北海道大学病院栄養管理部の熊谷聡美栄養士長らの研究グループは、嚥下食の〝飲み込みやすさ〟を、工業用粘着テープの試験手法を応用して評価する新しい方法を開発した。この研究により、従来の粘度測定では評価が難しかった固形や半固形の食品について、咽頭粘膜への付着・はく離を数値化することで、より実態に近い〝飲み込みやすさ〟の評価が可能となる。

高齢化が進むわが国では、嚥下障害を抱える患者数は増加の⼀途を辿っている。嚥下障害は誤嚥性肺炎 などの重大な健康リスクと密接に関係し、食べやすく安全な嚥下食の開発が急務となっている。

これまでに、粘度測定や経験に基づく評価手法が提案されてきたが、特におかゆやムース状食品などの半固形食では適切な定量評価が困難だった。高橋准教授らの研究では、食品と咽頭粘膜との間に生じる〝べたつき〟に着目し、工業用粘着テープの評価に用いられるはく離試験を応用した。

ホタテムースと全粥を試料とし、増粘剤や唾液モデルを加えた条件で、咽頭部表面を模したシリコンシートとのせん断力・はく離力を計測する手法を開発したことで、嚥下時の食品の残留や飲み込みやすさを直接評価できるようになった。

これにより、従来の粘度評価だけでは 見逃されていた〝咽頭への残りやすさ〟なども評価可能となった。

実験の結果、ホタテムースは増粘剤の添加によって付着力が増してはく離しにくくなり、粘度測定による従来の評価手法と同じ傾向を示した。唾液モデルの添加によって付着力が低下したが、シリコ ンシート表面には残存してしまい、結果として飲み込みにくくなってしまう可能性が示された。

一方で、全粥のように米粒と液体が混ざった不均質な食品では、増粘剤によって粘度が低下したにも関わらず、せん断力・はく離力には大きな変化がみられず、従来の粘度評価だけでは〝飲み込みやすさ〟を予測するのが困難なことが明らかとなった。

唾液モデルの添加によってシリコンシートへの残存が無くな ったことから、全粥の場合には唾液が飲み込みやすさに寄与することを定量的に示したこの手法により、固形に近い嚥下食を対象にした〝飲み込みやすさ〟の評価法が確立できたといえる。

高橋准教授らは今後、唾液に含まれる消化酵素の効果やより現実的な咽頭粘膜モデルを組み合わせた実験系を構築し、個々の患者の状態に応じた食事設計や、嚥下リハビリテーションへの応用を目指す。この研究成果は、2025年7月28日公開のFood Hydrocolloids誌にオンライン掲載された。