農研機構は、日本伝統の発酵技術である〝麹(こうじ)づくり″を応用し、穀物を原料として短期間で食用タンパク質を生産できる「窒素同化固体発酵」を開発した。
近年、世界人口の増加や新興国の経済発展に伴い、タンパク質の需要が世界全体で急速に増加しており、タンパク質の供給不足の発生が懸念されている。このため、タンパク質供給力の維持・強化に向け、既存の食料システムと調和した低コストで高効率な新しいタンパク質生産プロセスが求められている。
農研機構が新たに開発した窒素同化固体発酵は、麹を応用し、培養時に窒素化合物を添加するという工夫を加えることで簡便かつ迅速に食用タンパク質を生産する技術。
研究では、米、トウモロコシにアンモニアや尿素等の安価な窒素化合物、その他の無機塩類、麹菌の胞子を混合して30℃で静置し、4日後に培養物に含まれるタンパク質の量について評価を実施。その結果、発酵前の米、トウモロコシに比べ、タンパク質の量がそれぞれ2.3倍、1.6倍に増加した。また、米やトウモロコシのタンパク質については、構成するアミノ酸のうち、必須アミノ酸であるリジンの比率が低いことが知られているが、麹菌の発酵によってリジンの比率が高まり、タンパク質の質が向上することも明らかになった。
簡便な発酵処理で穀物のタンパク質を倍増できる窒素同化固体発酵は、新しい食品素材の提供につながるだけでなく、世界的なタンパク質需要増加への対応に貢献することが期待される。農研機構では、今回の成果の実用化に向け、窒素同化固体発酵を用いた高タンパク質な食品素材の開発を目指し、さらに研究を進めていくこととしている。