「酵素劣化仮説」の概要
(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所、中国科学院華南植物園の研究グループは、熱帯林の土壌に生息する微生物が、リン不足という過酷な環境に適応するため「質より量」の戦略を採用していることを明らかにした。
リンは、すべての生命活動に欠かせない栄養素だが、熱帯の多くの森林土壌では不足しており、植物や微生物の成長を制限する要因とされている。これまでの研究により、土壌微生物がリン不足に応じてリンを獲得する酵素「フォスファターゼ」の生産量を増加させることが広く知られていたが、酵素の〝質〟である分解効率の向上を伴うかどうかについては十分に解明されていなかった。
研究チームは、長期リン施肥実験のデータを統合的に分析し、微生物がリン不足に対処する際に、高品質な酵素を生産しているという従来の見解に反し、実際には分解効率の高い酵素の生産は行っていないことを明らかにした。
この現象を説明するため、研究チームは新たに「酵素劣化仮設(enzyme degradation hypothesis)」を提唱した。この仮説では、高品質な酵素を少量生産する戦略では、酵素等のタンパク質を分解する酵素であるプロテアーゼによる分解の影響を受けやすく、結果的に酵素の有効性が低下するため、微生物は低品質でも大量の酵素を生産する方が有利であるとしている。
今回の発見は、土壌微生物の栄養獲得戦略や、熱帯林におけるリン循環メカニズムの理解を一層深める成果であり、微生物機能を活用した持続可能な森林管理や効率的なリン資源利用への応用が期待される。