筑波大学の笹原信一朗教授らの研究チームは、2021年にモスクワで行われた閉鎖実験「SIRIUS-21」(シリウス21)に参加し、その結果を分析した。宇宙飛行船などの閉鎖空間内で起こる人間関係の変化と結束力を研究している。初期段階では分離が起き、後期には仕事とプライベートの境界がなくなり、結束力は維持されると分かった。
シリウス21はロシア生物医学問題研究所と米航空宇宙局(NASA)による共同実験だ。男女5人が240日の間、模擬宇宙船施設に閉じこもり、月へのフライトや探査車の操作をシミュレート。その間に、構成員の関係性を明らかにするテストを実施している。
実験では、入室前・入室中(4 回)・退室後の6時点で、「誰と一緒にいたいですか?」「誰と一緒にいたくないですか?」といった質問が書かれたアンケート調査をした。仕事とプライベート時間を示す文言を含めて、タイミングによる違いも分析している。
その結果、「実験初期では、人間関係の様相が大きく変化する」と「実験後期では、仕事時間とプライベート時間の人間関係が同一化してくる」「個人間の不和があっても、チーム結束力は通常の値を維持する場合がある」と判明している。
研究ではチームビルディングのための準備時間が2~3週間と短かったため、実験開始直後に人間関係が変化したと推測。対立と分離が確認され、施設の外にいる精神分野の専門家が介入した。また、後期には仕事とプライベートの境界が薄れて、人間関係の同一化が起きた。結束力は維持され、高いパフォーマンスが発揮されていたという。
笹原教授らは「宇宙飛行士や南極越冬隊のように、外部からの支援を受けることが困難な状況では、クルーのみで重要な決定を行わなければならない場面も少なくない」と説明。「得られた知見は、将来の月・火星探査などへの有人ミッションにとどまらず、地上における多様な職種やコミュニティにおける集団運営にも応用可能だ」と評価している。