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ニホンカモシカ、敵いなくても急傾斜地に 過去の捕食者の亡霊影響 東京農工大など(第18851号)

東京農工大学と山梨県富士山科学研究所、山梨県総合農業技術センターの研究チームは、国の特別天然記念物であるニホンカモシカ(カモシカ)の個体数は逃避できる場所が沢山存在するほど多い傾向にあると世界で初めて発見した。捕食者がいなくなっても、敵対動物の影響を受けていると明らかにしている。

カモシカは急峻な地形や崖を逃げ場に使う。現状、人間による捕獲は禁止されており、オオカミのような捕食者もいない。そのような中で、他の種に見られるような逃げ場が豊富なほど、個体数が多くなる特徴があるのかを調査した。

グループは2019~22年に富士山と周辺の山地で研究。54地点の計306.5キロメートルを歩いて回り、カモシカとシカの糞数、植物の現存量、標高などを記録した。

その結果、36地点でカモシカの糞を発見。個体数は広葉樹林よりも針葉樹林に多く、広葉樹が少なくササが沢山生えている場所で糞中たんぱく質が高い傾向にあった。針葉樹とササが多数あり、食物の栄養価が大きい場所ほどカモシカの生息地として適していると示唆されている。

一方で、シカの糞数や人家までの距離はカモシカの個体数に影響を与えていないことから、これらはカモシカの個体数を左右しないと分析している。だが、地形は強い影響力を持ち、傾斜が急なほどカモシカが多数いる傾向にあったという。天敵がいなくても逃げ場がある環境が好適な生息地であることから、捕食者の亡霊がカモシカに作用していると確認された。

グループは「カモシカは捕食者が不在でも安全を重視した戦略を持つのかを調査することが今後の課題である」と指し示した。富士山で絶滅が危惧されるカモシカの保全のために、急傾斜地で植物資源の増殖が重要であるとしている。