野球の投球で、ボールの種類や指先のすべり止めの違いによる「すべ り」は重要な要素であり、これまでに活発に議論されてきた。しかし、これまでの議論は選手の主観的な感覚に基づくものであり、ボールをリリースする過程で本当にすべっているのか、本当ならどの程度すべっているのか、また、そのすべり距離の違いが投球パフォーマンスにどのような影響を与えるのかは、十分に解明されていなかった。
東北大学大学院工学研究科の山口健教授、西駿明准教授、鈴木颯太大学院生 (研究当時)、鈴木紳之介大学院生、さらにNTTコミュニケーション科学基礎研究所の那須大毅主任研究員と福田岳洋客員研究員の研究グループは、高速度カメラを用いた解析により、ボールリリース過程における指先とボール間のすべり距離を推定する手法を開発した。
その結果、水で指先を濡らした場合に比べてロジン粉末などのすべり止めを使用した場合、ボールリリースまでのすべり距離が二分の一以下(平均でおよそ8mm)となることがわかった。
さらに、すべり距離が増加すると球速や回転数、コントロールが低下すること が確認され、特にすべり距離と回転数には強い負の相関がみられた。
この研究成果は、ピッチングでのボールリリースのメカニズムを解明し、投球 パフォーマンスの向上、障害予防、用具の開発などに貢献すると期待される。研究成果は3月27日付で科学誌Scientific Reports に掲載された。
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メジャーリーグ(MLB)では、2021年6月から粘着性のある物質の使用が厳しく禁止された結果、翌月以降の投手のパフォーマンスが低下したことが報告されている。これは摩擦の変化による回転数や制球力の低下が影響していると考えられている。
最近の研究では、指とボールの革のシートとの摩擦係数(摩擦度合いの指標)が、ロジンなどのすべり止めの使用、ボールの種類によって変化することが明らかになっている。しかし、摩擦係数の違いがボールリリース時のボールの動きやピッチングパフォーマンスにどのように影響するのかは不明だった。