マツヤマムカシゲンゴロウ(撮影者:小檜山賢二・慶應義塾大学名誉教授)
日本甲虫学会の柳丈陽さんと秋田勝己さんらでつくる地下水生甲虫研究グループは、愛媛県の地下水で暮らすゲンゴロウ4種を新たに発見したと発表した。農薬による化学汚染やダムの放流操作による地下水位の変動などが地下水生昆虫の脅威であり、新種の発見は意義深いという。
地下水生甲虫は深さ3~20mにある地下水にのみ生息する。地下水に適応し、羽は退化して飛ぶことができず、目も見えない。一方で、全身に生える感覚毛が発達し、頭部が巨大化している。このような特長を持つ「地下水生ゲンゴロウ」の発見は、国際的にも注目される成果だという。
新たに見つかった4種は「マツヤマイドケシゲンゴロウ」「クノムライドケシゲンゴロウ」「マツヤマムカシゲンゴロウ」「クノムラムカシゲンゴロウ」。それぞれ新種だが、マツヤマイドケシは新属でもあった。大きさは2ミリ程度で、生物の死骸などを食べる。
新種には土地にゆかりのある名称がつけられた。マツヤマイドとマツヤマムカシは松山市にある重信川水系の井戸、クノムライドとクノムラムカシは宇和島市来村川流域の井戸から発見されたことから命名されている。中でも、マツヤマムカシの学名には、松山市出身の松岡子規からとって「shiki」という文言が入る。
柳さんは「地下水生ゲンゴロウは、まだまだ未解明な分類群で、解明率は10%に満たない。一方で、環境の変化に弱く、発見される前に絶滅してしまう恐れもある」と紹介。「この研究は、地下水生ゲンゴロウの多様性を解明する一歩になったと考えており、今後も日本全国の地下水の調査を進めると共に、保全などについても取り組んでいきたい」と力を込めた。
■種と属
生物の分類階層は、「界」、「門」、「網」、「目」、「科」、「属」、「種」の順に表される。例えば、人間の場合は、動物界、脊索動物門、哺乳綱、サル目、ヒト科、ヒト属、ヒト種となる。新属新種とは、種の上の階級である、属も未記載であり、今回の論文で初めて新属として命名されたことを意味する。