東京理科大学
東京理科大学の笠井智香助教らの研究グループは、体に傷がなくても痛みを共有する「感情伝達」が動物の発生音で行われる可能性を明らかにしている。痛みを受ける動物の音声を聞くことで、傍観者が痛覚過敏になる脳内炎症の発生が認められた。痛みのコントロールに影響を与える新発見だという。
人などの動物は感覚と感情で痛みを感じると知られている。だが、その原因であり苦痛を受ける対象が近くにいるだけで、自身も痛いと思う感情伝達のメカニズムは分かっていない。
感情伝達が起こる要因は視覚と聴覚、嗅覚にあると考えられるが、今回の研究では音に着目。マウスに痛みの刺激を与えて、鳴き声を録音した。その中から、20キロヘルツ以上の音域のみを取り出したサウンドストレスを作製した。
都市の騒音程度の音である80デシベルのサウンドストレスをマウスに聞かせたところ、翌日と3日後に痛覚が過敏になっていると確認された。痛覚に関係する脳の視床を分析したところ、炎症関連遺伝子の上昇が認められた。炎症治療薬である「ロキソプロフェン」などの投与により、痛覚過敏が改善したと報告した。
グループは「サウンドストレスは脳内に炎症を引き起こし、痛覚過敏になるだけでなく、炎症性の疼痛を悪化させ、治療を困難にする一因であることが分かった」とし「研究を重ねることで、ストレス性(心理的、感情面)の痛みの理解と、音の面からストレスや環境刺激の低減につなげるといった、根拠に基づく痛みの治療戦略の開発が期待される」と評価した。