分析に使ったカマイルカの骨。
日本大学の岸田拓士教授ら4機関の研究者からなる研究グループは、先史時代のイルカの骨のDNA解析などの結果、4200年前から1000年でイルカ個体群が異なる遺伝グループに入れ替わったと示すデータを得たと発表した。これは4200年前の気候変動が海中にも影響を与えたことを表す成果だという。
研究グループは野島貝塚(横浜市)と東釧路貝塚(釧路市)、幣舞遺跡(同)などの遺跡を調べた。計54体のカマイルカとイシイイルカ、ネズミイルカの骨からそれぞれの年代を測定した。
調査によると、北海道の2遺跡におけるイルカ漁は4200年前に終了。3000年前に再開されたと分かった。そうした中で、幣舞遺跡から出土したカマイルカは4200年と3000年前に採られた個体の遺伝タイプが異なり、遺伝的につながらないグループであると判明している。
現在、同じ遺伝タイプを持つカマイルカは北太平洋沖に分布する。岸田教授は「幣舞遺跡の時代には海水温が低く低水温帯に生息するグループが道東まで分布を広げていた」と推測する。かつては、急激な寒冷と乾燥化を繰り返していたとされ、イルカ漁の停止も気候変動の影響を受けたと考えられるという。
岸田教授は「古代DNA研究はマンモスなど絶滅動物に目が行きがちだが、現在も生息し続ける生物の過去の多様性を理解することが必要」と説明。「今後も海棲(かいじゅう)哺乳類を中心に、日本列島の過去の生物多様性の姿――。いわば、日本の生物相の『原風景』を解明していきたい」と述べている。