鈴木庸平・准教授
1996年、火星から南極に落ちてきた隕石「アラン・ヒルズ84001」に生命の痕跡が発見されたと報じられた。当時、学生であった東京大学の鈴木庸平・准教授は「仮に火星の生物がいたら、どのように岩の中で生息するのか」と疑問を持ったという。現在「地球微生物学」を専門とし、火星から地球に持ち帰られる岩石とほぼ同じ年代の地球の岩石に存在する微生物を発見した鈴木さんを直撃した。
■20億年前の地層を採掘 1億年以上昔の生物発見
鈴木さんは、南アフリカにある20億年前の地層「ブッシュフェルト複合岩体」で採掘した岩石から生きた微生物を見つけた。岩石内の隙間で粘土により生物が封じ込められていたと推測した。
微生物はは岩の中でどのように生き延びてきたのか―。記者が尋ねると、「岩石の隙間を塞いでいた粘土から少しずつ栄養を摂取して、水素やメタンなどのガスをエネルギーにしてきたと考えられる」と教えてくれた。粘土は周辺の成分を引きつけ、ガスは岩のなかを移動できるため可能なのだという。
20億年前の地層に存在しているといっても、20億年微生物が生き続けていたという話ではない。100万年に1回程度のペースでゆっくり細胞分裂し、ほとんど進化してない可能性があるそうだ。岩の隙間では、物の供給が乏しいため、細胞を複製することも難しく、進化の機会が少ないのである。
■国際組織COSPAR 宇宙生物の存在証明法を発明
南アフリカの岩石を掘り起こして、太古の生き物を見つけようとしたきっかけは鈴木さんが所属する宇宙の国際組織「国際宇宙空間研究委員会」(COSPAR)の活動にあるそうだ。「惑星から試料を持ち帰ったときに、地球外生物の存在の有無をどのように見極めるのか」―。これは世界的な課題なのだという。
国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)の会議、鈴木さんは白い服を着ている左から2人目の男性 (撮影:JAXA木村駿太博士)
宇宙の試料に生き物がいるのか、いないのか。宇宙生物は地球型のように呼吸をしていない可能性もある。どの生物よりも小さいかもしれない。その存在を確認する一助となるために、現在専門とする地球微生物学で研究をしているそうだ。
それを探る方法の一つが、今回行った(火星を想定して)数十億年前の岩石から生物を探知した手段。鈴木さんは「宇宙の試料からでも生物を探れることを僕としては証明できたと思っている」と説明。仮に将来、試料があった時に「生物を認識できず見過ごしてしまわないようにしたい」と力強く訴えた。
■「やっぱり嬉しかった」
掘り起こした際の感想を教えてくれる鈴木さん
現在、欧米では10兆円規模で火星試料を持ち帰る取り組みが進んでいる。今後、試料が地球に来たときに、「将来的にはそのようなところにも加わってみたい」と意気込んだ。
南アフリカでは鈴木さんたちのチームが掘削を続けている。掘削の許可を得るために現地の学校で授業をしたり、現地の人を雇って掘削の作業を手伝ってもらったりしないといけないなど苦労は多いが充実している。
鈴木さんは岩の中から太古の微生物を見つけた際には、「やっぱり嬉しかった」と振り返る。成果が南アフリカをかけ巡ったと笑う。今後について、「地球にある未知の生き物がいるフロンティアを探る手段は作った」と誇らしそうに語り、これからも地球内外で調査を続けていくという。
鈴木さんが南アフリカの鉱物を熱消毒する様子(撮影: Kwena Mathopa)