世界に大きな影響を与えるアメリカ大統領選。ドナルド・トランプ前大統領とカマラ・ハリス現副大統領による歴史上まれに見ぬ大接戦は間もなく幕を閉じる。ホワイトハウスの執務室のイスに座るのは、返り咲きのトランプか、女性初大統領のハリスか。世界がかたずをのんで見守るなか、5日夜投票が始まる。
□ワクチン早期開発に成功
両候補のうち、過去に大統領としての経験があるトランプ氏が前回大統領を務めた際の科学技術・イノベーション政策を見てみた。JSTの報告書によると、政権発足当初は必ずしも重点施策というものが見られなかったが、徐々に前政権の政策を継承したものも含めて、政権の政策が明らかなになってきたという。
トランプ氏は〝未来の産業〟を強化する技術を重点化するとし、AIや量子情報科学、先進通信、バイオテクノロジーなどに重点を置いた施策を推進。特筆すべき施策としては、「オペレーションワープスピード」があげられる。新型コロナ感染症拡大後の施策として取り組んだもので、治療とワクチンの開発・製造・配布を目的としたNIHやCDCなど保健福祉局の諸機関と国防総省を中心として連邦政府諸機関が参画するプロジェクトを主導した。
トランプ氏によると、この取り組みにより、通常なら数年かかるワクチンの開発をわずかな期間で成し遂げることができたという。
□科技イノベに厳しい姿勢も
一方で、科技イノベに対する厳しい姿勢も、トランプ政権下ではとられた。同大統領が提出した予算教書は、基礎研究・応用研究予算で大幅な減額となっており、省・機関別でも、NASA予算で一部増額が見られるなど例外を除いて、総じて大幅なダウンとなった。
一例をみると、研究開発予算は前年度比でそれぞれ97.6%、87.0%、95.7%、89.6%(2018年度、19年度、20年度、21年度各予算教書)。ちなみにバンデン政権下での2022年度予算教書では、前年度比108.5%。
このため、大学協会や学協会などからは予算教書に対し、米国の科学技術研究・イノベ能力を大きく低下させるものといった論拠で反対の意見が示された。トランプ政権期で大統領予算教書が示されるたびに、アカデミックコミュニティから反対の声が上がったという。実際には、米国議会では議会で大統領予算教書を修正する形で、多くの研究開発予算について増額する歳出予算法案を作成。大統領もこの法案に署名することとなったことから、議会への感謝の声が寄せられた。